瓦屋根が減った6つの理由!現役瓦屋の考察

瓦屋根が少なくなった理由 瓦のすゝめ

最近瓦屋さん同士の会話でこんなことがありました。

「去年新築で瓦屋根はどれくらいあった?数えるほどしかないやろ?」

そうです。近年瓦屋根は急激に数を減らし、新築での瓦屋根施工数は数える程しかなく、年間2桁いけばかなり多い方です。全国でも瓦屋根の数が比較的多い京都でもこれですから、全国的に見れば瓦屋根はもはや珍しいものになりつつあります。

瓦葺き士としては、伝統ある日本の瓦屋根が消えてしまうのは、あまりにも惜しく、嘆かわしいばかりです。特に銀色に輝くいぶし瓦などは、日本の四季折々どの季節にも調和し、日本の原風景を見ることができます。

どうしてここまで瓦屋根は衰退していってしまったのでしょうか?今回はその原因について、考察していきたいと思います。

こんな方にオススメの記事

・新築や葺き替えの屋根材を瓦にするか不安

・瓦屋根にマイナスのイメージを持っている

・瓦屋根が減っている理由を知りたい


メディアによる印象操作

阪神淡路大震災を契機に激減

 阪神淡路大震災を契機に、瓦屋根の需要が大きく減少してしまいました。三大産地の一つである淡路瓦では、総出荷数が1/5に、およそ200軒近くあった窯業所は60軒ほどになりました。

それはメディアなどによって、倒壊した瓦屋根、割れた瓦、落ちた瓦などがたくさん報道されたことにより、一般の方々に瓦のマイナスイメージを植えつけてしまったことに起因します。

しかしながら、落ちたり、崩れたりした瓦屋根などは全く手入れがされていなかったり、不十分な施工がされている場合や、後の調査により、家屋の基盤に主な欠陥があったことがわかっています。

飛ばされたのは「瓦」だけではない

 先の台風でもそうですが、家屋に被害が及ぶような災害が起こった時に、取り沙汰されるのはいつも「瓦」です。軽量の屋根材と言われる金属材やコロニアルなどでもめくれたり、飛ばされたりしているにもかかわらず、映されるのはなぜか「瓦」だけです。

それはメディアが「こんな重たい瓦でも飛ばされるようなすごい風だったんですよ」と視聴者の方に分かりやすい形で報道したいからだと思います。この報道はフェアではありません。

実は飛ばされた瓦屋根の大半は古い屋根だったり、旧来の工法「土葺き工法」で施工されている場合がほとんどです。ここ20年来で葺かれた瓦屋根が飛ばされた映像などはほとんどないのではないでしょうか?

現在は「桟葺き工法」と言い、木に瓦を釘で打ち付けているため、ズレたり飛ばされることはほとんどなくなりました。

このように瓦屋根も時代とともに進化しているにもかかわらず、取り沙汰されるのは旧来のものばかりで、瓦のマイナスイメージのみが先行してしまっていることが、瓦屋根が衰退した主な原因の一つだと言えるのではないでしょうか。

日本人のライフスタイルの変化

財産から消耗品へ

 京都には旧家と言われる築100年以上経つ家がたくさんあります。つい最近も築100年近く経つお家の瓦屋根を施工させていただきましたが、まだまだ人が住めるように屋根以外の改装も進められていました。

本来家は代々引き継ぐもので、親から子供、子供から孫へと次の世代に引き渡されるものでした。

しかし地方の過疎化が進み、転勤が多く、親と同じ仕事をしなくなった現代日本人にとって、代々家を引き継ぐというライフスタイルはだんだん合わなくなってきているのではないでしょうか。

ともすれば、40・50年と長く保つ瓦屋根ではなく、その世代だけで十分な耐用年数である屋根材が選ばれることは致し方ないことだと思います。

家はだんだんと”消耗品”として変化し、次の世代に渡す”財産”ではなくなったことも、瓦屋根が衰退した原因の一つではないでしょうか。

瓦を乗せられない家づくり

家が消耗品に変わり、家づくりも変化しました。自然素材を使った家こそが「いい家」であるという信念を持つ一級建築士神崎隆洋氏は自身の著書の中でこう綴っています。

私が驚くのは、住まいを建てる方が自分の家にどういう柱や土台が使われているのか気にかけないことである。一生に一度か二度の高価な買い物なのだから、多少の負担の増加を惜しまず、良質の材木を使われることをおすすめする。今の家づくりは、システムキッチン、床暖房などの設備や付帯工事に多くの費用を割くようになっているのだから、なおさら、もう少し骨組みに予算をかけられたらいかがなものだろうか。日本には杉やヒノキという、米ツガより優れた木があることも知っていただき、家を建てるときの参考にしていただきたい。

”いい家は無垢の木と漆喰で建てる”より引用

著者によれば、現在のハウスメーカーなどの家づくりは、家の根幹を支える土台や柱でさえ、「防腐剤が注入された木材」や「接着剤で貼り合わせた集成材」などの人工的な木材が使われていると言います。

このような柱では、そもそも瓦の荷重を長期間に渡り支えられるだけの基礎ができるかという問題が出てくるため、ハウスメーカーなどは重い瓦を避け、軽量の金属材やスレートが選ばれるといった結果になっているのではないかと考えられます。(もちろん予算の都合もあります)

しかし、大工さんをはじめ家づくりに携わる職人さんたちは「瓦の荷重も支えられへん家なんか大丈夫か?」と懸念するところです。

実際に、軽量の屋根であっても倒壊することがあります。2016年に起こった熊本地震では軽量の屋根材で葺かれた家が倒壊してしまいました。いくら屋根が軽くとも、問題は躯体にあるということが言えます。

集成材

集成材

複数の木同士が接着されているのがわかる

↓瓦屋根の耐震性についてはこちら↓

深刻な職人不足

瓦を扱える職人が少ない

 日本人の瓦離れに伴い、それを施工する業者も少なくなりました。

中には、瓦を扱わないが故に「瓦は重いからやめた方がいい」と最初から瓦を勧めない業者もいます。

先の関東での台風被害で、「瓦を扱える職人がいない」ことが復興が遅れている原因の一つだと言われています。

屋根の優先順位

屋根より内装を重視

家を建てようと思う時、みなさんは何を重視するでしょうか。おそらくほとんどの方が、ソファやクロスなどの”見える部分”にこだわると思います。

外からしか見えない、見えづらい屋根を一番に考える人はいませんし、高い瓦屋根にお金をかけるより、安価な屋根材にして、もう少し良いソファを買いたいなと思うのではないでしょうか。

しかし、瓦屋根は長寿命かつメンテナンスコストが他の屋根材に比べてかなり安いというメリットがあります。初期コストこそ高いものの、住む年数を考えれば決して高い設備投資ではないことに気付きます。

屋根はないがしろにされがちですが、屋根は人やモノを護る大切な部分です。

瓦屋根のランニングコスト

この資料によれば、20年間で瓦屋根は化粧スレートに比べて、半分以上も安くなる計算になります。

瓦webより引用


まとめ

まとめ

・メディアの報道によって瓦屋根のマイナスイメージがついた

・家が消耗品になり、長寿命の瓦屋根が不要になった

・家づくりの変化

・和風建築の減少

・職人不足

・家の部分で屋根の優先順位が低い

終わりに

ザっと6つの理由について触れましたが、もちろんこれ以外にもたくさんの理由があると思います!

上に挙げたモノは、現役の瓦屋として実感するところです。

洋風建築が増え、瓦の需要も落ちましたが、近代建築のモダンな建物にも瓦が採用されており、近代と古代の対極するものが見事に調和し、非常にお洒落な建物もあります。

瓦には時代に縛られない美しさと、時代を乗り越えてきた機能が備わっていると思いました!

古来より、日本の風景を彩ってきた「瓦屋根」。そんな瓦屋根が少しでも増えていくよう願うとともに、瓦葺き士として日々精進したいと思います!!!

最後までご覧いただき、ありがとうございました!^_^

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